腕時計に欠かすことができない定期的なオーバーホール。今回は具体的にどんなことを行っているのか、当店における作業をもとにご説明したいと思います。

目次

 

点検

<状態把握>

オーバーホールのご依頼を頂く時計の状態は千差万別です。

特に不具合はないものの年数で区切って定期的にオーバーホールにやってくる時計もあれば、精度が著しく悪くなったり、急に止まってしまったり、中で異音がしたり、リューズが回せなくなったり、数時間しか稼働しなくなったり、あるいは数十年も机の引き出しに眠っていた時計も。

お預かりしてまず行うことはその時計がどのような状態にあるのかをきちんと把握することです。

<ファンクションチェック>

お客様からお伝え頂いた状態を参考にしながら、実際に時計に触れさせて頂きファンクションチェックを行います。

リューズの状態や巻上時の違和感、針回しやカレンダーがきちんと切り替わるか、それから防水検査等細かくチェックしながら気になる点を洗い出していきます。

その上でお伝え頂いた以外に不具合はないか、また不具合の原因がどこにあるのか見極めていきます。

<お見積もり>

オメガやロレックス(アンティークやコーアクシャル等の特殊機構を除く)をはじめ修理実績が豊富で知り尽くしていると自負しているキャリバー(ムーブメントの型番)についてはその場でお見積もりをお出しできる場合もあります。

一方、状態があまりよくなさそうな場合やアンティーク物に関してはお預かりしある程度分解しての点検を行った上でお見積もりをお出し致します。

↑ROLEX Cal.1570

<当店の特徴ー技術者が直接ご対応>

オーバーホールの外注を一切していない当店ではすべて技術者が直接ご対応させて頂いております。そのためオメガやロレックスを中心に大きな問題がない場合は20分程度でお見積もりをお出しすることも可能です(混雑時を除く)。また、一度お見積もりが確定した後は、万が一パーツ交換の必要があっても追加請求はしておりません。どうしても分解洗浄後でないと判別できない等の場合はあらかじめご相談させて頂きます。余計なパーツ交換も致しません。

分解洗浄

<ムーブメント分解>

お客様からお見積もりのご承認を頂いたら受付順にムーブメントを分解していきます。

当店ではパーツを1つひとつリグロインを用いて手作業による刷毛洗浄を行っております。刷毛洗浄後は機械による自動洗浄を行います。

機械で洗浄するならば手作業による刷毛洗浄は無駄な作業と思われるかもしれません。しかし実はこの作業こそがとても大事なのです。

分解時には1つひとつパーツの状態をしっかりチェックしていきます。特に歯車のカナ部分は潤滑油が劣化しこびりついていると機械洗浄では落としきれず精度にも大きく影響してくるため念入りに刷毛洗浄を行います。

この段階でできる微調整や修理もあらかじめ行っておきます。注油後に調整のため何度も分解・組立を繰り返さぬよう「あとは組み立てるだけ」の状態を目指します。

【OMEGA Speedmaster Cal.3220の分解の様子】

↑ムーブメント専用の超音波自動洗浄機VELVO CLEAR ETC-Ⅶ

<ケース・ブレス洗浄>

オーバーホールでは当然ムーブメントだけでなくケースやブレスも洗浄します。当店では電解洗浄と超音波洗浄の2種類の洗浄を行なっております。

電解洗浄機の使用対象は本来貴金属となりますが(変色が綺麗に戻ります)、ステンレス製のブレスも超音波洗浄前の予備洗浄として電解洗浄機にかけます。

この電解洗浄は電解脱脂技術を応用しており貴金属でなくともブレスに付着した皮脂汚れを下から持ち上げて除去しやすくしてくれるのです。

大抵はこの段階でだいぶ綺麗になりますがそれでも浮いてこない頑固な汚れは歯間ブラシを用いて地道に落としていきます。

一見綺麗に見えるブレスも洗浄すると水が真っ黒になることも多いです。そのためオーバーホールとは関係ありませんが年に一度ブレス洗浄だけ行うのもオススメです(当店の場合は¥1,100/税込、翌日お渡し)。

電解洗浄が終わったら超音波洗浄機にかけて水シミが残らない様1つひとつ拭き上げた上で乾燥機にかけて乾かします。

↑ブレス電解洗浄の様子

<ケース・ブレス仕上げについて>

電解洗浄+超音波洗浄では小傷は落とせないもののかなり綺麗な状態になります。そのため当店ではごく薄く表面を削る仕上げ(ポリッシュまたは研磨)は別料金でオプションとさせて頂いております。

また、オーバーホールはすべて外注なしにこだわっておりますが、仕上げのみより上手な人がやるべきという観点から専門の職人さんに外注しております。

組立調整

<ムーブメントの組立・注油>

洗浄が終わると組立調整作業に入ります。当店ではパーツが入手できない場合や特殊な構造の場合を除きブランド問わずオーバーホールを承っております。

ムーブメントの種類は数えたこともありませんが百種類以上はあるでしょうか。ご依頼の多いROLEXやOMEGA、SEIKOそれからETA製のムーブメントは手順やすべての注油箇所が技術者の頭の中に叩き込まれております(技術解説書もあります)。

どのムーブメントであっても基本的な構造は共通しているため潤滑油注油への考え方も変わりませんが、そのムーブメント固有の注意点もあり1つでも誤ると箇所によっては時計が動かない原因にもなるため慎重に作業します。

また経験上技術解説書の指示通りではうまく稼働しないことやムーブメントの状態によって微調整が必要なこともあります。そうしたことも踏まえながらお預かりした時計をよい状態に戻す、よい状態を引き出すよう作業していきます。

【組立ダイジェスト動画】

<精度調整>

テンプと呼ばれるパーツ(上記動画で回転運動をしているパーツ)まで組み終えたところで精度調整を行います。

ほとんど調整の必要がないケースもあればかなりの調整が必要なケースもありこの工程にかかる時間も様々です。

自動巻やクロノグラフ機能付きの時計であればそれらの部分をすべて組み終えたところで再度精度をチェックし必要があれば調整していきます。

↑ROLEX Cal.3135 組立後
↑OMEGA Cal.564 組立後
↑CITIZEN Cal.1850 組立後

 

<ケーシング・テスト・お渡し>

組立完了後は文字板・針を取り付け、汚れや糸ゴミの混入に注意しながら洗浄済みのケースに入れていきます。そして防水検査、稼働テストを行っていきます。

自動巻であればワインダーによる自動巻機能のチェック、クロノグラフであればクロノグラフを作動させての動作チェックなど機能に応じてテストする項目も変わってきます。テストで不具合があれば原因を探り、場合によっては再度分解工程からやり直すこともあります。

すべての工程を終えてようやく完了・お渡し・ご発送となります。

以上がごく大まかなオーバーホールの流れです。今回は機械式時計でご紹介致しましたがクォーツ時計も基本的な流れは変わりません。

オーバーホールの内容を知って頂くことで、お持ちの時計への愛着がより一層深まれば幸いです。

<当店の特徴ーマイページ機能>

当店では時計ごとにマイページ(←クリックで見本ページが開きます)を作成し、わかりやすく納得感のあるお見積もりを心がけております。オーバーホールの履歴がわかるカルテのようなイメージです。普段見ることができない美しいムーブメントも是非ご覧ください。